不可能性の問題は、九鬼周造の『偶然性の問題』の〈後ろの正面〉に伏在する形而上学的悪魔の問題であるという風にも考えられる。 この形而上学的悪魔は、『偶然性の問題』と同じ1935年に出版された夢野久作『ドグラ・マグラ』の有名な巻頭歌に、いわば〈恐れイリヤの鬼母子神〉として生々しく表現されたものと別ではない(cf.レヴィナス『実存から実存者へ』等:非人称のイリヤ il y a)。 《胎児よ 胎児よ 何故躍る 母親の心がわかって おそろしいのか》と夢野は書いている。 『偶然性の問題』と『ドグラ・マグラ』が同じ年に出版されたのはただの偶然で済まされる問題ではない。 『ドグラ・マグラ』が黙示録的に曝露するのは、〈偶然〉などは「有り得ない」という〈悪魔の必然性〉としての不可能性の問題の削除不能なその伏在であるからだ。 * * * ◇〈宿命〉と〈運命〉の差異について それは〈宿命〉の問題であると換言しても