市場に来るのはちょっと遅かったようだ。地元の人たちの姿もちらほらと見えるけれど、市場は総じて閑散としていた。あったのかもしれない喧騒は、すでに何処かに消え去ってしまっていた。そんな市場の中に女性がいるのが見えた。女性の前には大きな籠が置かれていて、中には野菜が並べられている。女性はこの市場で野菜を販売しているのだった。 雨が上がったばかりだったので、地面は濡れていた。舗装されていない地面は泥濘んでいる。僕は市場の喧騒が見られなかったのを残念に思うのと同時に、女性のサリーが心配になってしまった。地面に直に腰を下ろしている女性が纏っているサリーはとても鮮やかな色をしている。泥濘んだ地面に腰を下ろしていたらその鮮やかなサリーが汚れてしまうに違いない。それに、汚れたのを洗うにも洗濯機でなく手洗いだろうから大変だ。