ベンチェー川の岸辺に何隻もの貨物船がたゆたっていた。ベンチェーの町はメコンデルタにおける海運の中心地のひとつなので、川岸には海運を担っている船たちが何隻も係留されているのだ。面白いのは停泊しているどの船の船首にも、瞳が描かれていることだ。丸くて可愛らしい瞳で、船首はまるで小動物の顔のようになっている。 真正面からその顔を眺めていると、この動物は次の船出を心待ちにしているように見えてくる。まだ見ぬ世界に赴くのは、心躍るような経験であると同時に不安も脳裏によぎるだろう。でも、このような瞳があればどんなに深い霧の中でも航路を見分けることが出来るに違いない。
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