胎蔵曼荼羅のパンテオンを具に観察すると、このマンダラを構想した密教の哲人の編集力に驚かされる。密教の哲人はこのマンダラで、法身・大日如来をすべての仏たちの主尊(今流に言えばマザーコンピュータ)として新たに位置づけ、従来の仏教の如来・菩薩をフルキャストで登場させ、かつ密教が護法神として取り入れたヒンドウー教の神々やその眷属、そして星宿の一一(いちいち)、冥界の鬼女までも集合させた。しかも一尊一尊の尊形・印相・三昧耶(持ち物)にはその尊の役割と仏徳がシンボライズされている。密教では仏尊本体とシンボルを同等のもの(三昧耶・samaya・サマヤ=これを「平等」とする訳例が多くみられるが「同等」の方が真意に近い)とする。 この多様壮大な仏尊の集合はまた、釈尊以来の仏教体系の集約であり、「無執着」「無明や六道からの解脱」の釈尊仏教を越え、「無我」の小乗を越え、「縁起」「無自性」「空(性)」の大乗を越え