ZARDの「負けないで」がヒットしたとき、旧ソビエト連邦の「社会主義リアリズム」を思い出した。美術や音楽、文学というものは、すべからく「バカな労働者」にも理解でき「慰め」と「励まし」として機能しなければならないとする考え方である。芸術というものは、徹底的に生産主義、社会主義の手段でなければならないわけである。しかしその実態は、はっきりいって1920年代のロシア・アバンギャルドの反動にすぎない。脳ミソ筋肉の労働者や田舎者の政治家には、前衛的な表現は理解できなかっただけだ。 「負けないで」は1993年、バブル崩壊が顕在化した年に発表された。高度成長期の終わりの風を感じ、それでもまだそれなりに経済が豊かだったころだ。とはいえ、何かがミシリと折れかけたような挫折感があることには薄々気づいていて、それで「負けないで」という甘ったるいフレーズが流行った。日本のサラリーマンとその家族は、前衛的な表現を認