「21世紀構想懇談会」という会合に参加することになった。安倍晋三首相の戦後70年談話の判断材料を提供する場になるようだ。この機会に、歴史について個人的に所感めいたことを述べておきたい。 かつて、歴史の出来事を根本まで遡(さかのぼ)って熱心に理解しようとしたトルストイは、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』さえ現実に起こった事実と自前の「空虚」な枠組みを混同したと批判したものだ。とはいえ、トルストイの態度は時に「全面的に非歴史的」だと後世から非難されたこともあり、歴史を物語と誤解する傾向も帯びていた。 歴史家の仕事は、出来事や人びとの在り方をできるだけ客観的に見て公平に評価することにある。それは、Id est quod est(カクノゴトクアルモノハ、カクノゴトクアル)と言い表すこともできよう。私は、日本の歴史を格別に悲観的に考えたこともなく、ゆとりのある反省から見る方である。歴史とはすでに起こった