ニーチェはショーペンハウアーの意志哲学の影響を多大に受け、またワーグナーの芸術にも傾倒しました。その思想はおよそ三期に分けられ、第一期はショーペンハウアー的・ワーグナー的時期です。『悲劇の誕生』、『反時代的考察』がそれにあたります。そして過渡期にあたる第二期においては、『人間的な、あまりに人間的な』や『曙光』などの作品を残しました。その円熟期は第三期であり、ツァラトゥストラ期と呼ばれます。『ツァラトゥストラ』、『善悪の彼岸』などがこのころの著作です。ニーチェは1889年にトリノで倒れ発狂したのち、その11年後に亡くなりますが、彼の遺稿を集めて死後に出版された『力への意志』も、彼の哲学を知る上で重要な位置を占めています。 ニーチェはその処女作『悲劇の誕生』において、芸術を「アポロン的なもの」と「ディオニュソス的なもの」というふたつの衝動によって規定しました。アポロン的なものが甘美な夢の仮象を