鶴屋南北の『東海道四谷怪談』で描かれる、美女が毒薬により醜くなるという展開は、柳亭種彦の『浅間嶽面影草紙(あさまがたけおもかげそうし)』が先輩だ。だが、『四谷怪談』が美男による女性虐待なのに対し、こちらは美女による美女の虐待だ。 美男の巴之丞(ともえのじょう)に一目惚れした美女の瞿麦(なでしこ)は、父大臣の力で結婚を勝ち取るものの、夫は時鳥(ほととぎす)という武芸に秀でた美少女を愛していた。時鳥を憎む瞿麦は、卑しい育ちの時鳥に琴を弾くよう迫って恥をかかせた上、毒薬入りの酒を飲ませたため、時鳥は全身に腫れ物ができ、青蠅が膿汁をすする惨状になってしまう。 後篇『逢州執着譚(おうしゅうしゅうじゃくものがたり)』では、毒薬の代金を請求しに来て瞿麦に殺された医師の霊に、時鳥は真実と治療法を教わってもとの美少女に戻るのだが。病後で衰弱したところを瞿麦に襲われ、左腕を切り落とされてしまう。 恐ろしいのは