青くかすむ湖面を背景に、団扇を手にした浴衣姿の女性を描いた「湖畔」ほど、ひろく親しまれた絵画作品はないだろう。それは、わたしたちが、この作品のなかに、いかにもすずやかな情感を感じとるとともに、気品のある明治の女性像の理想をみとめているからではないだろうか。そして、この作品の作者である黒田清輝は、「近代洋画の父」といわれるように、日本の近代美術史のながれのなかで、なんといっても大きい存在であることは、これもまたひろくみとめられている。それは、彼の作品の高い芸術性とその作品のひとつ、ひとつがなげかける絵画表現とその背後の思想が、わたしたちにとっての移植文化としての洋画(西洋画)を考えるとき、本質的な、そして現在までのつづく問題をふくんでいるためである。同時に、その画家としての生涯をみると、黒田は、明治という時代ならではの、宿命をになっていたこともわかる。近代国家として、憲法をはじめ、諸制度を整