8月の焼けつく日差しのもと、岐阜県大垣市の救護施設「牧野華園(まきのかえん)」の庭先に小玉スイカが実っていた。「まめにひっくり返し、満遍なく太陽が当たるようにしています」。いたわるように世話をしているのは、生活保護を受けながら施設で暮らす沢木一矢さん(52)だ。「穏やかに生活させてもらえるのはありがたい。でも、自分が何者なのか分からないまま時間が過ぎていくのは、つらい」。身元不明者として、ここで4回目の夏を迎えた。 2012年11月、同県白川町の飛騨川沿いで衰弱し倒れているのを発見された。記憶を失い、身元につながる所持品もなく、説明できたのは「さわきかずや」という名前と生年月日。行方不明届にも該当者はなかった。混乱していた沢木さんは、徐々に思い出せる限りの過去を語り始めた。 この記事は有料記事です。 残り352文字(全文694文字)