今年はウィークデーを中心になるべく旅に出るようにしていますが、いわゆる観光のようなことはあまりせず、旅先でも日常の延長のように過ごしています。若い頃に読んだ玉村豊男『旅する人』の影響です。 パリ大学言語学研究所に入学後、東京大学仏文科卒の玉村豊男は毎年のようにパリを訪れるのですが、有名な教会や寺院、博物館や美術館などの観光名所にはほとんど行かなくなったそうです。 考えてみると、日本で暮らしているときに、連日お寺や教会ばかり訪ね歩いている人はまずいまい。 美術館博物館にばかり毎日通っている人も滅多にいないだろう。いるとすれば模写中の画家か美術評論家くらいのものだ。 ごく普通の人は、仕事場と自宅のあいだを往復し、そのどちらかに近いところで毎日の買物をしたり一杯飲んだり、要するにごく狭い限られた範囲の中で生活している。その生活が、一年三六五日の大半を占めている。そういう人が、外国へ行ったからとい