岡野:実は、この小説大好きなんですよ僕。普通の青春小説って世界にバツをつけていく話だと思うんだ。(略)だけど、薫くんは自分にどんどんバツをつけていく代わりに、世界にマルをつけようと頑張るわけ。で、物語の最後のほうで、それでも世界への憎悪に押し潰されて、今にもバツをつけそうになるんだけど、ある少女と出会って、そのエピソードを由美に話すことでかろうじてマルの側に踏みとどまる。その展開はかなり好きだな。 豊崎:わたしも薫くんのキャラはかなり好みです。この人ってみんなが幸福になるには世界をどうすればいいかなんて、ベンサムの「最大多数の最大幸福」みたいなことを考えてる、思い上がりもはなはだしい高校生なんだけど、その理想主義的な背伸びの仕方、嫌いじゃないなあ。 都内の一流高校に通う主人公・薫くんが、〈品行方正でよく「お勉強」して悩みの影なんか全然なく、いつも雄鶏みたいにきちんと七時に起きて学校へ来る