川端:「トランスポーテーション」ですね。物語に入り込むんです。 藤井:そう、心理学では「トランスポーテーション理論」とかって言うんですけど、自分を村上春樹の世界にトランスポートして、そこで生きることができるような気になるんですよ。もちろん僕は、小学生の頃なら『太平記』とか『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』の特攻シーンにもトランスポートしたりするんですけど、いかんせん日常生活とかけ離れすぎてる。 ところが、春樹の描くジェイズ・バーの世界、後に「直子」と呼ばれる女の子、あるいは、4本指の女の子や、後に「ミドリ」と呼ばれるような鼻をくっつけて寝る女の子、あと『ねじまき鳥クロニクル』の世界で出てくる隣の女の子、ああいう女の子たちというのは、おそらく誰の人生の隣にもいるかもしれない女の子たちだし、実際に僕の現実世界のなかに、それぞれに思い当たる節があるんです。しかも、ジェイズ・バーのような空間で