【勝負師たちの系譜】 年明けから王将戦、棋王戦と並行して進んでいた、渡辺明三冠にとってのダブルタイトル戦は、どちらも防衛で終了した。 前々回の本欄に、棋王戦第3局で挑戦者の糸谷哲郎八段の粘りを振り切って勝った瞬間、渡辺はこれで嫌な流れを断ち切ったと指摘したが、まさにその通りとなったのである。 まず王将戦では、挑戦者の永瀬拓矢王座に3連勝から2連敗と追い上げられていて、内容も完全に相手のペースにハマっていただけに、これはひょっとすると大逆転もあるかもと見られていた。 かつて渡辺は竜王戦で羽生善治九段相手に、3連敗から4連勝という棋界初の奇跡的な逆転劇を演じたことがある。この時の最終局は、勝った方が永世竜王になる大一番だった。 今回の追い上げには、怪しい雰囲気も漂っていたのだが、棋王戦での勝利が転機となったと思う。 第6局は後手番の渡辺が、永瀬の得意とする角交換早繰銀からの速攻に対し、交換した