僕の家の庭には昔、栗の木が立っていた。毎年6月になるとあの独特の匂いをまき散らし、夏になると毛虫みたいな花を落とし、10月になるとさして大きくもない実をたくさん落とす、そんなどこにでもありそうな栗の木だった。 僕は幼稚園の頃から毎年のようにその実を落としてきたので、どんどん栗の実を採るのが上手になっていった。栗の実を落とすには、棒なんかを使うよりもサッカーボールが一番いいのだ。それも、少し空気の抜けたやつが。両手で持ったボールを股の下に振り下げて勢いをつけ、真上に放り上げる。この方法だと非力だった僕にも高いところの実が取れた。ボールは幹か実に当たり、その衝撃で実が落ちてくる。熟しているのだったら中身だけが落ちてくるし、まだ少し青いものならいがごと落ちてくる。そういうものは片足で踏みつけ、もう片足で反対側を踏んで剥いてから中の硬い実だけを取り出す。火ばさみや軍手なんか使ったことがなかった。た