少年は漆黒のトレンチコートを身にまとい、首から顔まで隠れるほどに襟を深く立てて、両ポケットに手をつっこみ、そして静かに「はぁ……」と溜息を吐いた。 同時に、彼の背中に、肩に、足元に、黒く影のついた六本脚の仮想生物、 ――害蟲(バグ)が、這い寄った。 「この街の大人は、今日もクソみたいに平和面しているな」 蟲遣い(グリッチャー)は人気のない路地裏から顔を覗かせ、街を行き交う大人たちを値踏みしていた。 店舗の軒先には、露出度の高いチャイナ服を着た女性が立っている。スリットから太腿を覗かせた卑猥なポーズで金持ちを誘惑し、豊満な胸を自慢しながら今宵の相手を探している。 ベンチに腰を下ろして休憩している小太りの男は、手のひらサイズの女の子を持ちだして、頬をぷにぷにと突いては可愛がっている。 大通りを横切る貴婦人は、粒の大きな宝石をアクセサリーに散りばめて、見せびらかすかのように闊歩していた。 それら