「おう八っつぁん、どうした浮かない顔をして」 「おや熊さん。それがな。ここだけの話なんだが、俺ぁもう相撲を取るのをやめようかと思うんだよ」 「そりゃまたどうしてだい。おまえさん、このあいだ横綱になったばかりじゃないか」 「俺はほとほと疲れはてたんだよ。もう身体がぼろぼろだ。しばらくは家の中で出来る仕事をしてゆっくり過ごそうかと思うんだ。しかし家内にそう言うと反対されちまってね」 「そいつぁ奥さんが正しいよ。『河童も歩けば棒に当たる』と言うだろう。河の中では泳ぎが上手い河童だって、陸に上がればふらふらで、あちこちにぶつかっちまう。悪いことは言わねえから、おまえさんの土俵で勝負すりゃいい」 「しかし熊さん、『勝って兜に近寄らず』とも言うじゃねえか。得意だからってやっぱり危ないことはしたくねえ。上手くいったところですっぱりやめるのが正解だと思うんだがね」 「いやいや、それは違うぜ八っつぁん。『暖