緊急事態宣言が続き、どこにも出かけられない時期が続くと、家の周りをちょっと散歩…ということが増えてくる。太宰治賞受賞の『空芯手帳』(筑摩書房刊)でデビューした作家の八木詠美さんもその一人だ。 近所を散歩する中で、八木さんが気になった「表札」にまつわる、あることとはー 散歩途中で目に入る表札 よくある話だけれども、新型コロナウイルスが流行するこの一年で、今まで以上に近所を散歩することが増えた。東京の西の方の、小さな住宅地を歩く。 これもよくある話だけれども、こんな家々が近くにあったのかという発見が毎日ある。建物の右半分が明らかに傾き始めている家、ひび割れたミッキーマウスの置物が地獄の門番のように佇む家、黄色いふわふわのモッコウバラの妖精が棲みつく家。 これはよくある話なのかはわからないけれど、次第に家よりも表札が目に入るようになった。多くは苗字だけだ。山田とか鈴木とか田中とか。それが二つ並ん