昨秋から延々と取り組み続けている個人的な計画、即ち三島由紀夫の主要な作品を悉く読破して自分なりの感想を纏め、見知らぬ赤の他人が振り翳したり口走ったりする「三島文学」への評価から切り離された場所で、手作りの個人的な知見を築き上げるという抽象的な計画も、愈々重要な大詰めを迎えた。三島由紀夫の遺作であり、その華麗なる文学的履歴の総てを傾注して綴られた畢生の四部作「豊饒の海」に漸く辿り着いたのである。目下、第一巻の『春の雪』(新潮文庫)を読み進めている最中である。 三島由紀夫という作家の名前を私が最初に知ったのは恐らく、少年時代に父母が同じ団地に暮らす知人から無償で譲り受けた新潮社の古い函入りの文学全集に触れたときであったと思う。四十巻以上に上る厖大な全集の最終巻が「三島由紀夫」であった。今思えば非常に簡素な造作の製本であったが、刊行当時は充分に贅沢で華美な書物の群れとして読者には受け止められたの