改訂履歴 1.はじめに 歌劇《Die Entführung aus dem Serail》K.384を皆さんはどのような日本語の翻訳タイトルで呼んでいるであろうか。呼び馴れた定訳をお持ちの方でも、本を紐解くたびにまちまちな翻訳タイトルが使われていることに困惑した経験はないだろうか。一時は《後宮からの誘拐》が大多数を占めていたが、最近再び諸訳乱立の傾向が甚だしくなり、収拾がつかなくなりそうなところまで発展している。皆さんの中にも「誘拐」という言葉はこのオペラの内容にそぐわないし、物騒でもあると感じる人は多いことであろう。しかしこの際、なぜ「誘拐」などと言う言葉が出てきたのか、落ち着いて考えてみるのも無駄ではあるまい。我々がどのタイトルでこの曲を呼んだらよいのかの回答が見つかるはずである。 2.タイトル翻訳の変遷 まず、どのような翻訳があるかを見てみよう。ここ60年間の日本の事例と、各国の状況