カズオ・イシグロの本棚 日本生まれの英国人作家で「世界文学の旗手」でもあるカズオ・イシグロ氏が来日した。自身の人生や作品に影響を与えてきた本について語った。 出会いは「しゃあろっく・ほうむず」 子供の頃、私は決して読書が好きではありませんでした。もし、シャーロック・ホームズがいなければ、読書をすることもなかったかもしれません。 ホームズを初めて知ったのは日本語で。9歳か10歳の頃でした。母が『まだらの紐(ひも)』を読んでくれたのです。怖くて、数日間、眠れなくなったのですが、なぜかまたすぐ読みたくなって図書館に行き、英語でも読むようになりました。「ホームズ中毒」になったことで、未熟だった私の英語は、ホームズやワトソンと同じ「ビクトリア朝」になってしまいました。「Pray be seated(訳例=まあ、かけてくれたまえ)」とか「My dear fellow(同=貴君)」とか。友人たちは、話し