はじめに この書は,精神医学という臨床領域と神経心理学という学際領域に一定の関心のある方々で,精神疾患には統合失調症,躁うつ病,神経症などがあって,こうした精神疾患は「こころの病気」であると考えている方々,あるいはこれらは「脳の病気」であると考えている方々,さらには精神病のほうは多少とも「脳の病気」であるけれども,神経症は「こころの病気」であると考えている方々,すべてに対して,基本的なところで再考を促すことを主な目的として書かれている。筆者は,いろいろな事情から最近の精神医学そのものに対して「何か,おかしい,このままでは進み行かないのではないか」という懸念をかなり前から抱き続けてきた。何故かというと,まず精神症状の捉え方そのものにおいて,精神科医も一般の人々も,どうも妙なバイアスのかかった見方をしているのではないか,と思うからである。 そうしたバイアスをもっとも端的に示しているのは,「ここ