タワー 作者:ペ・ミョンフン河出書房新社Amazonこの『タワー』は、韓国を代表するSF作家の一人ペ・ミョンフンの代表作といえる連作短篇集だ。最初、それ以外の前情報は一切仕入れずに読み始めたのだが、すぐに面食らってしまった。いったいこれは何の話なんだ……? と。舞台は674階建て、人口50万人にもおよぶ巨大タワー「ビーンスターク」。その時点で異様な存在だが、その中では地上では理解もつかぬ人々とその行動が展開するのである。 東方の三博士──犬入りバージョン たとえば一篇目の「東方の三博士──犬入りバージョン」ではビーンスタークミクロ権力研究所のチョン教授が、酒に電子タグをつけてタワーの上流社会に流通させ、それがどこに贈られていくかで権力構造を把握しようとする実験が語られていく。 イ博士はミクロ権力研究所に入ってもう三年めだった。彼はチョン教授の話を聞くたびに、こいつは天才なのかいかさま師なの