高校時代までは、熊本市内に住む私にとって、人吉球磨地方というのは、遠い遠い場所だった。 球磨地方といってもイメージが湧いてこないのだ。断片的に「球磨川」とか「山奥」といった言葉が浮かぶだけ。 高校時代の友人に、免田町出身者がいる。 今は、町村合併してあさぎり町だが。 彼が休みに帰省するとき、「球磨のお土産」を頼んだ。持ってきたのは、「猪の肉」だった。仰天した。 「球磨のステーキはイノシシなのか?」 「ちがうぞ!」と彼は反駁した。 「球磨の町なかは、イノシシが走り回っているのか?」 「ちがう。ちゃんと自動車が走り回っているぞ」 少し球磨のイメージが変わった。その変化したイメージを友人に言った。 「そうか。球磨の町なかを走っている自動車はタイヤの代わりにイノシシが四頭ついているんだな」 友人は黙っていた。やや呆れ顔で。 猪の肉は、塩焼きにして食べた。 固かった。 「イノシシの肉以外で、何か名物