近年、量子力学を使って脳の機能を明らかにしようという試みに、何人かの科学者がチャレンジしています。最も有名なのは、細胞骨格となる微小管で生じる波動関数の収縮が意識と関係しているとするペンローズとハメロフの主張ですが、一般相対論に関する優れた業績(特異点定理の発見など)で知られるペンローズの名声を持ってしても、多くの科学者の賛同を得るには至っていません。また、物理学者の梅沢博臣とリチアルディも、場の量子論のフォーマリズムを用いて、神経細胞と環境との相互作用による集団運動の励起を考察していますが、モデルが具体性を欠いてわかりにくい上に、「非一様で高温の脳内部では、熱雑音に乱されて量子論的な集団運動は生じないはずだ」という批判に答えられないと思われます。 量子脳力学(Quantum Brain Dynamics; QBD)とは、梅沢らの業績に触発されて、保江邦夫と治部眞理が展開している理論です。