火葬後,近親者が集まり,遺骨を粉にして服用する。あるいはこれに類する 行為をおこなう。そのような習俗が日本のいくつかの地域で近年までおこなわ れていた。公然とではないが点在していた。 この原稿では,何人かのインフォーマントから聞いた話と,近年の報告を紹 介する。そして,こうした習俗が行われていた理由について考えてみる。 主要な事例報告対象とした地域は,以下のとおりである。 兵庫県淡路島南部,愛媛県越智郡大島,愛知県三河地方西部,新潟県糸魚川 市。 近親者による食屍は,アブノーマルなことに思われる。しかし,長寿を全う した者,崇敬を集めていた人物が被食対象となっていることからは,死者の卓 越した生命力や能力にあやかろうとする素朴な思いが反映していることを認め ることができる。最愛の妻などの遺骨をかむことに対しても,哀惜の感情が表 明されている。これらの行為は,素朴な人間感情の表出であると考え