誰でもよかった。あの頃、二十歳の僕は。四六時中苛ついていて、それでいてなにに対して苛ついているのか対象がわからない僕は、ただ誰かに受け止めて欲しいと願っていた。自己中心だとは知りながら。「あなたは自分しか愛せない人なの。顔をいつも隠しているのよ」。そう言い残して消えた恋人の影は僕の心に沁みのように、内出血のように、落ちない痕となっていた。《他人に興味がない》。僕を通過していった三千の女性はみんな、ディティールは違えど同じことを言っては僕の前から消えた。 「もう人間はたくさんだ」。僕は友人から借りていた車を走らせていた。目的はなかった。行く先は決めていなかった。静かな夏の夜だった。月が白く輝いていた。月は姿をカムフラージュする意志を持っているかのように明るい光を放っていた。僕には月が欠けているのか欠けていないのかわからなかった。もしかすると昼間の太陽も欠けているのかもしれない。高速道路から見