サン・ルイス・ソヤトラン(San Luis Soyatlán)は、メキシコ最大の湖沼、チャパラ湖の南岸に位置する農業の町だ。車で町なかに入ると、真っ赤な液体がつまったビニール袋を手にする町民の多さに気づく。もしかして、吸血鬼がこの辺りに店を構え、同胞に日々の糧を安く卸しているのだろうか、と勘ぐってしまうほどだ。 うだるような暑さの日曜午後、私が町に着くと、既に50名程度がその〈麻薬〉を手にしようと、そわそわしながら道端の露店に並んでいた。特筆すべき名物もないこの町で、人びとの足を止めるのはただひとつ、メキシコ最高のテキーラ・カクテルと名高い、この町で生まれた〈バンピーロ〉だ。 バンピーロをつくるオスカー・ヘルナンデス(Oscar Hernández). All photos by the author. 太鼓腹と白髪交じりの頭、シワの刻まれた額が印象的なオスカー・エルナンデス(Oscar