ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』の冒頭には、こんな一文が浮かび上がる。「この映画は1986年から1991年の間、軍事政権のもと民主化運動に揺れる韓国において実際に起きた未解決連続殺人事件をもとにしたフィクションです」。映画のもとになったのは、「ファソン華城連続殺人事件」。86年から91年にかけて、ソウルから南に約50キロ離れた農村の半径2キロ以内で起きた10件に及ぶ連続強姦殺人事件だ。その捜査には180万人の警官が動員され、3000人の容疑者が取り調べを受けたという。 映画は、86年10月、稲穂が頭をたれ、子供たちが戯れるのどかな農村の風景から始まる。だが、広々としたその田の用水路から、手足を縛られ、頭部にガードルを被せられた若い女性の死体が発見され、やがて連続殺人事件に発展していく。事件の捜査の先頭に立つのは、地元警察のパク刑事とソウルからやって来たソ刑事。叩上げの経験と強引な手段で勝負