川崎の事件のことをはじめて耳にしたとき、何とも言えず嫌な感じがした。頭で「嫌だな」と思うのではなくて、腹からドス黒い液体がじっとりと染みだしてくるような肉体的な実感があった。あれほど残虐なことが行われたのだから、当たり前といえば当たり前。なのだけど、おれにとってはちょっと珍しいことではあった。これまでどれだけ残虐な事件を目にしたって、わりと平気だったのだ。というよりも、正直なところ、それらを楽しんでさえいた。どんなひどいことが起こったとしても、ニュースラインに乗ってしまえばコンテンツで、それを安直に消費することを全くためらわなかった。良心の呵責を覚えることもほとんどなかった。殺した人にも、殺された人にも、それぞれの人生があって、家族や友人がいて…。そうしたことを、想像する回路がおれには備わっていなかった。仮に想像したとしても、それはコンテンツをより楽しむためのスパイスの役目しか果たさなかっ