2022年11月、神戸地裁の法廷。あるひき逃げ事件の裁判が開かれていた。上下白色のスエット姿で現れた男性被告は、終始うつむいたまま。裁判でこういう態度自体はよくある仕草だ。不自然なのは、体を右にひねって自分の右足のつま先ばかり眺め、視線を外そうとしないこと。理由はすぐに分かった。傍聴席の左側に、遺影があるからだ。被害に遭った若い男性の写真。視界に入らないようにしているようだ。 裁判記録によると2022年6月3日未明、この被告は飲酒後、助手席に20代の女性を乗せて車を運転した。女性の制止を振り切って赤信号を2回無視し、時速140キロ以上で走行し、三輪バイクに後ろから衝突。乗っていた神戸市の飲食業李泉さん=当時(34)=は即死した。しかも救護せずにそのまま走り去り、さらに車も乗り捨てて逃げた。あまりにひどい事件だが、被告に適用されたのは危険運転致死罪ではなく、過失運転致死罪だった。一体なぜなの