まだ肌寒い春の朝、道の先から音楽が聞こえてきた。 黒っぽいスーツを着たお兄ちゃんが、リズムと共に近づいてくる。 これは春のアレな人か…と道路の反対側に逃げたくなったが交通量の多い出勤時間帯、道を渡りようもなくメロディがやってくる。 この曲は…聞いたことがあるけどなんだっけ? 雨上がりの道を傘さして歩いた? 音楽を聴きながらずっとタイトルを考えてしまう。 近くで見ると、有線のイヤホンを付けたサラリーマン風の人だったので少しホッとする。 おそらくジャックにきちんと刺さっていないことに気が付いていないだけなのだろう。 すれ違った瞬間、曲のタイトルを思い出す。 『ミーシャか!』 曲はなぜかミーシャの昔懐かしい名曲『つつみ込むように』だった。 男性が通り過ぎた後、思わず口に出してしまうと前方を歩いていた女性も『ですよね!』と軽く振り返ってくれた。 多分通り沿いの別の会社に勤める人だ。 いつも見かけて