ブリューゲル(Pieter Bruegel 1525?-1569)の世界は実に豊饒である。それには彼の生きた時代のフランドルの文化が背景にある。ブリューゲルの絵の世界は、聖書に取材したきわめて宗教的な雰囲気のつよい作品がある一方、民衆の粗野ともいえる因習的な生活に取材したものもある。また、ルネサンスの開明的な雰囲気を感じさせるものもある。それらが混然一体となったものこそ、ブリューゲルが生きた時代のフランドルの文化だったのであり、ブリューゲルはそれを最もよく体現した芸術家だったのである。 ピーテル・ブリューゲルの生年は明かではないが、1525年から1530年の間だろうと推測されている。というのも、ブリューゲルは1551年にアントワープの画家組合に初めて親方として登録しているのだが、通常それは21歳から26歳の間になされるのが慣行だったからだ。確定的ではないが、大きく間違ってもいないだろう。死