翻訳をやっていると、ときどき自分が透明人間みたいになって、文章という回路を通って、他人の(つまりそれを書いた人)の心の中や、頭の中に入っていくみたいな気持になることがあります。まるでだれもいない家の中にそっと入っていくみたいに。あるいはぼくは文章というものを通じて、他者とそういう関わりをもつことにすごく興味があるのかもしれないですね。(『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』新潮文庫) 「翻訳の神様から見れば、我々はすべてアマチュアなのだ」(柴田)村上春樹・柴田元幸(『翻訳夜話』文春新書) 学生時代、よく通ったカレー屋に「インデアン・カレー」というお店があった。インディアンの羽根をつけた子供がそのお店のトレードマークだった。カレーはおいしかったのだけれど、どう考えてもインディアンがカレーを食べたという話を聞いたことがない。「インデアン・カレー」というのは「インド・カレー」の誤訳から生まれたのであ