著: じろまるいずみ 「ね、抜け出さない?」 そんな映画やマンガみたいなセリフを言われたことがあるだろうか。 私はある。 それはオシャレな人に誘われた、オシャレな人しかいない六本木のパーティーで、オシャレじゃない私がすっかり浮いていた日の話だ。明らかにジャンルの違う人たちと、すり合わせてもすり合わせても共通点が見つからないパーティーにすっかり疲れ、会場の隅、衝立の後ろにひっそりと隠れていたときのことだ。 飽きた。つまらない。でも帰る勇気はない。私ひとりいなくなったところで誰も悲しみはしないだろうが、誘ってくれた人に「つまらないから帰るわ」なんて言えるわけがない。どうしよう。どうしよう。うじうじ、もんもんとしていると突然衝立が揺れ、男が飛び込んできた。それがTとの出会いだった。 一目で、お互い場違い同士だと分かった。会話にすり減ったHPを回復するために、物陰に逃げ込んできた同士だということが