ここでいう「市民」は、日本語の語感からはずいぶんとかけ離れた意味をになっているので注意を要する。日本語の「市民」は、 ただの町の人、生活者、政治とは関わりのない普通の人というニュアンスが濃厚だが、ドゥプレのいう「市民」 とはフランス語のシトワイヤンのことで、ポリス=政治社会の構成員、すなわち公事=レス・ププリカに参加し、国家意思、 政治的意思の形成にかかわる自律的個人を指している。その意味では、「公民」とするほうが適当かもしれないし、 現にそのように訳される場合もある。ただ、日本語の「公民」にはお上に従う民というニュアンスがあり、 それではシトワイヤンの本義から大きくはずれることになる。フランス語のシトワイヤンとは、「人権宣言」として知られる、1789年の 「人および市民の諸権利にかんする宣言」における「市民」のことである。この「宣言」における「人」 とは啓蒙の思想家たちが好んで使った概念