※複数の森博嗣作品および夢野久作作品の重大なネタバレを含みます。 tsubameisflyinglow.hatenablog.com 薄紅色の唇が、私の前に浮かんでいた。(『赤目姫の潮解』より) 森博嗣の百年シリーズ第3作『赤目姫の潮解』は、百年シリーズの中でも、そして、S&Mシリーズから始まる真賀田四季を中心としたサーガ(以降「四季サーガ」と呼ぶ)の中でも、極めて異色な作品だ。 その「異色さ」は一度読めば、すぐにわかる。例えば、シリーズ前2作の主人公サエバ・ミチルはじめ、既存シリーズのキャラクタが登場しない*1ことや、シリーズや四季サーガを通しての位置付けや時系列がはっきりとしないこと、非直線的な時間や視点の混線を含む、現実世界ではあり得ない描写が頻繁に現れることなどは、他の森作品ではありえない(しかし、それでいて四季サーガの中で確固たる存在感を持ち、どこか連続性も保っているというところ