聞こえてきた声は、『彼』の主の部下と名乗る男のものだった。 立場的には『同僚』と呼んで差し支えないはずだが、時としてその部下は主より上位に立っていることすらあるから自分と同列には語れまい。 「もう少し計画的にお金を使ってはいかがですが」 最早耳に馴染んでいるその声色は、かなり険しい。 「じゃあお前、俺が悪くなったもの食って腹壊してもいいって言うのか!」 『彼』の主も言葉を返すが、こちらは初手から部下に圧倒されている感が丸見えで、この時点で既に勝負の行方は決しているようなものだった。 『彼』がこのアパートにやってきて数日経つが、主とその部下は日に一度は金のことで頭を悩ませているようだった。 今日もしばし言い争いが続いて、それをぼんやりと聞くうちに、『彼』は空模様が怪しくなってきたことに気づく。 そろそろ主が『彼』を駆って仕事に向かう時間だ。 「お待ちください魔王様! まだ話は……