12年かかって見た景色。 12年前。 お金も、仕事も、居場所もなかった。 12年前。 「柱もねぇ、壁もねぇ、床板まともにはまってねぇ」幾三ハウスから始まった生活。 ダンボールをタンスにし、結婚記念日にウェンディーズのバーガーセットを食べていた。 逃げてきた分、1歩1歩が重かった12年。 日が落ちて、人が少なくなった街を歩く。 塔の上ではためくメープルフラッグを眺めている時、頭にあったのは、泣きながら空のスーツケースを投げつけられた日だった。 時間が進まない、病院の長い廊下。 受け取られなかった手紙。 灯りがつかない部屋。 馴染まない水を飲んで、何とか笑顔を浮かべていた日々が浮かんでは消えた。 暮れ行く街に向かい、手を合わせる。 ありがたいことに、もう生きるか死ぬかじゃない。 12年かかって見た景色。 12年かけて固めた地盤。 踏み込んだ足を弾く堅さがあれば、描いた通りに跳んでいける。 全て