『KAGEROU』はそこからスタートする。 〈「いや、違うんですよ! 違います」 慌てふためくヤスオに、男がその場にはそぐわないヤケにのんびりとした口調で聞いた。 「なにが違うんですか?」 「だから、その……自殺とかそういうあれじゃなくて……あ! 景色を見ようとしただけで」〉 なのにこの軽さ。 廃墟と化したデパートの屋上から飛び降り自殺をしようとするヤスオ。その寸前、キョウヤという謎の美青年に見とがめられ、必死に言い訳をする。最初のほうのシーンだ。 〈「タバコ持ってないですよね?」 「すみません、吸わないもので」 「そっか……すいません。吸いません、なんちゃって」 「え?」 「なんでもないです」〉 自殺を阻止したキョウヤとヤスオ、そのしばらく後の会話である。いやいますよこういう四十歳だって。むしろイマドキの人物造型としてはリアルですらあるのかも。 だけど、この超話題作ですよ。若手人気俳優が