犬の旅 のらの犬がいた。 犬はなでられると、こわかった。 棒を握った手をみると逃げながらほっとした。 石を投げつける手とパンをくれる手。 犬には区別がつかなかった。 だから犬はいつもこわい夢をみた。 こわくて目が覚めると月にほえた。 どこかで自分と同じような声が 聞こえる夜も。聞こえない夜も、あった。 犬は旅にでた。 その町には食べ物がなかった。 肉屋がてんで商売にならないような町で 男たちは棒や石で犬を追い回した。 犬は旅をした。 その町にはサーカス小屋がなかった。 サーカスがてんで商売にならないような町で ただの犬には誰も見向きもしなかった。 犬は旅をした。 その町には犬がいなかった。 めずらしい猫と勘違いされて犬はちやほやされた。 でも、ぼくは猫じゃない。 犬は旅をした。 その町には警察がないようなものだった。 警察がいちばんの大泥棒みたいな町で 犬は番をして餌をもらった。夜も眠れな