ホー・チ・ミンはフランスの植民地(フランス領インドシナ)であったベトナム中部のゲアン省ナムダン県で生まれた。父の儒学者・グエン・シン・サックの影響を受け、ホー・チ・ミンは幼少から論語の素読を学んで中国語を習得した。父が阮朝の宮廷に出仕するようになるとホー・チ・ミンも父とともに都のフエに移り、ベトナム人官吏を養成する国学でフランス語も学ぶようになった[1]。しかし、在学中に農民の抗税運動(賦役納税に反対する運動)に携わったためにフランス当局から目を付けられて退学処分となった。 その後、ラミラル・ラトゥーシュ=トレヴィル号という船の見習いコックとして採用されたホー・チ・ミンは、1911年6月5日、サイゴンを出帆してフランスへと向かった。同年7月6日にマルセイユに到着し、初めての外国暮らしを体験する。マルセイユのカフェでコーヒーを注文した際に、人生で初めてフランス人の従業員から「ムッシュ」と敬語