初回に,建築家の中村好文氏の「どんな家が欲しいのか,依頼者には分からない」という言葉をご紹介したが,今回も建築の話題をひとつ。 幅広い音楽ジャンルで活動しレコーディング・スタジオの設計・建設でも活躍されているミキシング・エンジニアの赤川新一氏がこんなことを言っていた。 「優れた建築家ほど,現場での変更が多い」 駄目な建築家は,当初の設計どおりに作ろうとする。しかし,ものづくりでは,設計の段階でユーザーの要求を漏れなく盛り込めるわけではない。優れた建築家は,どれくらいの要求が漏れているのかだいたい分かっていて,それを前提に行動する。工事が始まってから新たな事実が発覚したときに,ためらうことなく,効率的に変更ができるのが優れた建築家である。 レコーディング・スタジオのような難しい建築工事になると,初期のユーザー要求は明確になっていてもそれを実現する方法が十分に見えていない状態での着工になること