ポルトガル国境に近いスペイン南西部のオリベンサ。 美しい衣装に身を包んだ男が闘牛場にゆっくりとした足取りで現れると、 割れんばかりの拍手と声援が会場に響いた。 左目にはアイパッチ。顔は少しゆがんでいるようにみえる。 が、眼光だけは異様に鋭い。まるで飢えた野獣のようだ。闘牛場に立つのは、 5カ月ぶりに復活を果たしたファン・ホセ・パディーヤさん(38)だ。 「私が戻ってくることはないだろうと、みんな思っていただろう」 彼の言葉を疑う人はいなかった。あのときの悪夢を覚えているからだ。 スペイン北東部サラゴサの闘牛場で昨年10月、猛進した闘牛の角が パディーヤさんの下あごを貫き、左目を直撃した。顔中血だらけとなった彼は 死のふちをさまよった。 それでも立ち上がった。 今回の負傷は、生命の危機から脱したものの、顔面神経がまひし、 顔にはチタンプレートを埋め込んだ。食事もまま