今は亡き小針あき宏氏の「確率・統計入門」という本は、この分野の教科書の中でも名著として知られている。ぼくもウン十年前の学生時代から愛読しているのだが、最近読み直していて、単なる誤植ではすまない、わりと重大な誤りがあることに気がついた。 誤りを見つけたのは、いわゆる「確率変数の変換」についての記述。確率分布 p(x) を y = f(x) で変換した結果 q(y) は、f(x) の逆関数を x = φ(y) としたとき、 になるという命題(命題 2.6)においてである。これは、正規分布の一次結合が正規分布になるという定理や、χ2乗分布の導出などにも使われる重要な命題なのだが、よく考えるとおかしいのだ。 この命題には、f(x) の条件として、単調で導関数が連続としか書かれていないのだが、もし f(x) が単調増加でなく単調減少だったら、φ(y) の導関数は常に負である。一方、p(φ(y)) は