「これからは医師が起業する時代だ」と投資家たちは言うが、実際に日本で医師の知恵を使ってイノベーションを起こそうとしている最新例を紹介する。 2011年12月1日、オランダはハーグの特許庁に、まだ青年の面差しを残す一人の男が裁判のため出頭した。ヨーロッパで開発し、売り出した製品が、特許を侵害していると欧州の企業に訴えられたからだ。 男は“特許潰し”という大攻撃を受けていたのである。特許を守り切ることができなければ、事業価値はゼロになる。男は“勝負の一日”に人生を賭けた。 その男とは、現在、バイオベンチャー企業ヘリオスの代表取締役を務める鍵本忠尚だ。鍵本は、2014年、理化学研究所の高橋政代が行ったiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を加齢黄斑変性の眼病患者に移植するという世界初の手術の実用化を担う起業家であるが、同時に、医師という顔も併せ持つ。医師から起業家へ鍵本を転身させたものは