書評:「背信の科学者たち」 ―科学研究に潜む名誉欲・金銭欲の罠― 前期旧石器の捏造事件で考古学会が揺れている中、この問題を考えるうえでの格好の参考書がある。「背信の科学者たち:原題は真理 の背信者たち―科学の殿堂における欺瞞と詐欺―」、化学同人刊。1988年)である。 ―科学の客観性という虚構― この本は著者の前書きによると『西洋社会において、真理の最後の審判者とみなされていた知識体系である科学とは現実にはどのよう なものであるか』を明らかにしようとしたものである。『伝統的な科学観によれば、科学は厳密に論理的な過程であり、客観性こそ科学 研究に対する基本的な態度である。科学者の主張は同僚科学者による審査や追試を通じて厳しくチェックされ、あらゆる種類の誤りはこ の自己検証的な科学の体系から容赦なく排除される』と一般には考えられてきた。 しかし1980年代にアメリカにおいて科学者が偽りのデータ