「名刺はいりませんか」 その声の方へ顔を向けると、駅前でスーツ姿の女の子が声をあげている 「名刺はいりませんか」 みなは何が起きるのか知っているらしく、顔を背けて通り過ぎる 「名刺を配りきらないと帰れないんです」 それでも彼女に声をかける人はいない 雪の降る街に彼女の声が消えてゆく 見かねた私は彼女に近づき、マッチをひと箱差し出した 彼女はひとつ礼を言うと、マッチを擦り持っていた名刺に火をつけた すると不思議なことに、その炎の中にひとつの情景が浮かんできた 誰かが机に向かってぺこぺことお辞儀をしている と、火が消えると同時にその光景もフッと消えた 彼女はもう一つマッチを取り出して名刺に火をつける 今度はたくさんの人が直立不動で並び、ひたすらに何かを叫んでいる と、その中に彼女らしき人を見つけたと同時に炎が消えた それから彼女がひとつ名刺を燃やすたび、様々な幻影が現れた 電話をかける姿 スー