東京の下町では、浅蜊料理が食卓に登場する頻度がとても高い。 初夏からの旬の季節には、浅蜊のみそ汁、吸い物はもちろんのこと、殻ごと酒で蒸したもの、 浅蜊のむき身を生姜とともに醤油で甘辛くさっと煮たもの、 白ネギとむき身、油揚げを煮て卵でとじたもの、 冬になれば大根と浅蜊のむき身たっぷりの鍋など……。 池波正太郎の小説にもよく江戸の「食」が出てくるが、浅蜊を使った料理も登場する。 「待たせていただきたい」 という大治郎に、先ず、冷酒を湯のみ茶碗にいれて出した。 ── 略 ── それから、おみねは夕餉の支度にかかり、たちまちに大治郎へ膳を出した。 その支度があまりにも早かったので、大治郎は遠慮をする間とてなかった。 いまが旬の浅蜊の剥身と葱の五分切を薄味の出汁にたっぷり煮て、これを土鍋ごと持ち出した おみねは、汁もろとも炊きたての飯へかけて、大治郎へ出した。 深川の人々は、これを「ぶっかけ」など