「大国の覇権争いという平和の危機」「グローバルな人類の危機」「経済社会矛盾が深刻化する国家の危機」この三つの複合的危機の時代にある今、国際政治の基本に立ち返り、問題を整理することで見えてくることがある。東大名誉教授にして元外交官である著者が、国際秩序の変容、そして日本にも迫る危機を論じた本書の、「はじめに」を公開しました。ぜひ、お読み下さい。 2020年代、世界は大変動の時代に突入し、先の見えない危機の中にある。習近平国家主席が、「100年に一度の大変局と新型コロナ感染症の影響」と表現すれば、バイデン大統領も、「気候危機と100年に一度とされる感染症の大流行」と表現した。二人の指導者の表現がいみじくも一致した現下の危機は三つの危機からなる未曽有の複合危機である。 第一の危機は、大国の覇権争いという平和の危機である。国際政治は「権力政治」と言われる。力(パワー)こそが支配的で究極的な要素だ。